システム障害やサービス停止が発生した際、場当たり的な対応で混乱していませんか?適切なインシデント管理体制がないと、復旧が遅れてビジネス機会を損失するだけでなく、顧客からの信頼も失いかねません。この記事を読めば、インシデント管理の目的や重要性といった基礎知識から、ITILに準拠した体制構築の具体的な5ステップまで、すべてを理解できます。結論として、効果的なインシデント管理の鍵は「プロセスの標準化」と「ノウハウの蓄積」です。本記事で提供する管理表や報告書のテンプレートを活用すれば、専門知識がなくても、明日からすぐに体系的な管理運用を始めることが可能です。属人化を防ぎ、組織全体の対応力を強化しましょう。
インシデント管理とは何か
インシデント管理とは、予期せぬITサービスの停止や品質低下といった「インシデント」が発生した際に、サービスを可能な限り迅速に正常な状態へ復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えるためのプロセス全体を指します。例えば、「社内システムにログインできない」「Webサイトの表示が極端に遅い」といった事象がインシデントにあたります。
この活動は、ITサービスマネジメントの成功事例を体系的にまとめたフレームワークである「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」でも中核をなすプロセスとして定義されており、安定したシステム運用に不可欠な要素です。
インシデント管理の目的と重要性
インシデント管理の最大の目的は、インシデント発生からサービス復旧までの時間を可能な限り短縮することです。サービスが停止している時間が長引けば、売上の機会損失や顧客からの信頼失墜、従業員の生産性低下など、ビジネスに与える悪影響は計り知れません。
迅速な復旧を実現することで、顧客満足度を維持し、企業としての信頼性を高めることができます。また、インシデントの対応記録を蓄積・分析することで、将来の同様の事象に対してより迅速かつ的確に対応できるようになり、サービス全体の品質向上にも繋がります。つまり、インシデント管理は単なる事後対応ではなく、事業継続性を支える重要な活動なのです。
インシデント管理と問題管理や障害管理との違い
インシデント管理は、「問題管理」や「障害管理」といった用語と混同されがちですが、それぞれの目的と役割は明確に異なります。インシデント管理の目的が「迅速なサービス復旧(応急処置)」であるのに対し、問題管理は「根本原因の特定と再発防止」を目的とします。
以下の表で、それぞれの違いを整理します。
| 管理プロセス | 主な目的 | アプローチ | 具体例 |
|---|---|---|---|
| インシデント管理 | サービスの迅速な復旧(応急処置) | 発生した事象(サービス停止など)に対し、暫定的な回避策(ワークアラウンド)も含めてとにかく早く正常化させる。 | 「サーバーを再起動して、ひとまずサービスを復旧させる」 |
| 問題管理 | 根本原因の特定と恒久的な対策(再発防止) | インシデントの発生原因を深掘りして調査・分析し、同じことが二度と起きないように恒久的な解決策を実施する。 | 「サーバーが頻繁に停止する原因がメモリ不足だと特定し、メモリを増設する」 |
| 障害管理 | 故障した構成要素の修復・交換 | ITインフラを構成するハードウェアやソフトウェアなどの物理的・論理的な故障箇所を特定し、修理や交換を行う。 | 「故障したネットワークスイッチを交換する」 |
これらの関係性を整理すると、「故障したネットワークスイッチ(障害)が原因で、Webサイトにアクセスできない(インシデント)事象が頻発するようになったため、その根本原因を調査し、スイッチ交換の恒久対策を決定する(問題管理)」といった流れになります。インシデント管理は「今起きている火事を消す」活動、問題管理は「火事が起きないようにする」活動と覚えると分かりやすいでしょう。
インシデント管理を導入する3つのメリット
インシデント管理は、単にシステム障害に対応するだけの受け身の活動ではありません。適切に導入・運用することで、ビジネスに多くのメリットをもたらします。ここでは、インシデント管理がもたらす代表的な3つのメリットを具体的に解説します。
メリット1 迅速なサービス復旧による機会損失の防止
ビジネスにおけるシステムの停止は、売上の機会損失に直結します。例えば、ECサイトで決済システムに障害が発生すれば、その間の売上はゼロになります。社内システムが停止すれば、従業員の業務が止まり、生産性が著しく低下します。
インシデント管理体制が整備されていると、インシデントの検知から担当者への通知、対応、復旧までの一連の流れがルール化されています。これにより、あらかじめ定められたプロセスに従って、担当者が迅速かつ的確に対応できるため、サービス停止時間(ダウンタイム)を最小限に抑えることが可能です。
結果として、MTTR(平均修復時間)が短縮され、システム停止による売上減少や生産性低下といった機会損失を最小化できるのです。
メリット2 顧客満足度と信頼性の向上
提供しているサービスで障害が発生した際、最も影響を受けるのは顧客です。復旧が遅れたり、状況に関する情報提供がなかったりすると、顧客は大きな不満と不安を抱きます。これが顧客離れやブランドイメージの低下につながることは少なくありません。
インシデント管理を導入すると、障害発生時の対応プロセスが明確になります。これにより、障害発生時の顧客への状況報告や復旧見込みの連絡がスムーズに行えるようになります。たとえ障害が発生しても、迅速な復旧対応と誠実な情報開示を行うことで、顧客の不安を和らげ、むしろ「信頼できる企業だ」というポジティブな評価を得ることも可能です。
安定したサービス提供と、万が一の際の透明性のある対応は、長期的な顧客満足度と企業への信頼性を高める上で不可欠な要素です。
メリット3 ノウハウの蓄積と業務の属人化防止
「あのベテラン社員がいないと、このシステムトラブルは解決できない」といった状況は、多くの組織が抱える課題です。このような特定の個人にスキルや知識が依存する「属人化」は、その担当者が不在の際に対応が滞ったり、退職によってノウハウが失われたりする大きなリスクをはらんでいます。
インシデント管理のプロセスでは、発生したインシデントの内容、原因調査、対応手順、最終的な解決策などをすべて記録として残します。これにより、対応履歴がナレッジベースとして組織に蓄積され、誰でも過去の事例を参照できるようになります。
その結果、担当者の経験やスキルに依存することなく、チーム全体で対応品質を平準化できます。また、蓄積されたナレッジは新メンバーの教育資料としても活用でき、組織全体の対応力向上と持続的な運用体制の構築に貢献します。
| 項目 | インシデント管理がない場合 | インシデント管理がある場合 |
|---|---|---|
| 対応品質 | 担当者のスキルに依存し、品質がばらつく。 | プロセスとナレッジに基づき、対応品質が標準化される。 |
| 情報共有 | 口頭や記憶に頼りがちで、関係者への共有が遅れる。 | ツールやルールに基づき、リアルタイムで正確な情報が共有される。 |
| ノウハウ | 個人の中に留まり、組織に蓄積されない(属人化)。 | 対応履歴がナレッジとして蓄積され、組織の資産となる。 |
| 担当者不在時 | 対応が大幅に遅延、または停止するリスクが高い。 | 別の担当者が履歴を参考に代替対応でき、ビジネスへの影響を最小化できる。 |
インシデント管理の始め方5ステップ
インシデント管理を効果的に機能させるためには、場当たり的な対応ではなく、体系立てられた準備が必要です。ここでは、インシデント管理の体制をゼロから構築し、実践に移すための具体的な5つのステップを解説します。この手順に沿って進めることで、誰が、いつ、何をすべきかが明確になり、スムーズな運用開始が可能になります。
ステップ1 インシデント管理の体制を構築する
インシデント管理の成功は、明確な役割分担と責任範囲が定められた体制を構築できるかにかかっています。インシデント発生時に迅速かつ的確な判断を下し、組織全体として一貫した対応をとるための基盤を作りましょう。
インシデントマネージャーと対応チームの役割
まず、インシデント対応の指揮を執る「インシデントマネージャー」と、実務を担当する「対応チーム」を定義します。それぞれの役割を明確にすることで、混乱を防ぎ、スムーズな連携を実現します。
| 役割 | 主な責務 |
|---|---|
| インシデントマネージャー | インシデント対応全体の指揮・監督、意思決定、関係各所への報告、対応プロセスの改善推進など、対応の全責任を負います。 |
| 一次対応チーム(サービスデスク) | ユーザーからの問い合わせ窓口として、インシデントの受付、記録、初期対応を行います。簡単な問題はその場で解決し、解決できない場合は二次対応チームへエスカレーションします。 |
| 二次対応チーム(技術サポート) | 一次対応で解決できなかった、より専門的な知識を要するインシデントの調査・診断・解決を担当します。インフラ、アプリケーションなど専門分野ごとにチームを分けることもあります。 |
| 三次対応チーム(開発者・外部ベンダー) | システムの設計やソースコードレベルでの修正が必要な場合など、最高レベルの専門性が求められるインシデントに対応します。 |
責任範囲と報告ルートの明確化
インシデント発生時に「誰が」「誰に」「何を」報告するのか、そのルートをあらかじめ定めておくことが重要です。これにより、報告漏れや判断の遅れを防ぎ、経営層を含めた関係者全員が迅速に状況を把握できます。責任の所在を明確にするためには、RACIチャート(実行責任者、説明責任者、協業先、報告先を整理するフレームワーク)などを用いて、各担当者の関与レベルを定義すると良いでしょう。また、インシデントの重要度に応じて報告先や報告タイミングを変えるなど、具体的なルールを設けることが不可欠です。
ステップ2 インシデント管理のプロセスを設計する
次に、インシデントを検知してから解決し、クローズするまでの一連の流れ、すなわち「管理プロセス」を設計します。標準化されたプロセスを定義することで、対応の品質を均一化し、担当者による対応のばらつきを防ぎます。
ITILに準拠した基本的なフロー
ITサービスマネジメントの成功事例を体系化したベストプラクティスである「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」に準拠したプロセスを参考にすると、網羅的で効果的なフローを設計しやすくなります。ITILにおけるインシデント管理のライフサイクルは、一般的に以下のフェーズで構成されます。
- 識別 (Identification):インシデントの発生を検知します。
- 記録 (Logging):検知したインシデントに関する全ての情報を記録します。
- 分類 (Categorization):インシデントを種類や影響範囲に応じて分類します。
- 優先度付け (Prioritization):ビジネスへの影響度と緊急度に基づき、対応の優先順位を決定します。
- 初期診断 (Initial Diagnosis):一次対応チームが状況を調査し、解決を試みます。
- エスカレーション (Escalation):一次対応で解決できない場合に、二次・三次対応チームへ引き継ぎます。
- 調査と診断 (Investigation and Diagnosis):専門チームが根本原因を調査し、恒久的な解決策を検討します。
- 解決と復旧 (Resolution and Recovery):解決策を適用し、サービスを正常な状態に復旧させます。
- クローズ (Closure):ユーザーに解決を報告し、記録を完成させてインシデントをクローズします。
検知からクローズまでの流れ
上記のITILのフローを、より具体的な業務に落とし込んでみましょう。まず、監視ツールからのアラート、ユーザーからの電話やメールなど、インシデントの「検知」方法を定義します。検知したインシデントは、管理ツールなどを用いて速やかに「記録」します。次に、記録された内容をもとに、ハードウェア障害、ソフトウェアのバグといった「分類」を行い、ビジネスインパクトを考慮して「優先度」を決定します。この優先度に基づき、一次対応チームが「調査・対応」を開始し、解決が困難な場合は定められたルールに従って上位チームへ「エスカレーション」します。最終的にサービスが「復旧」したら、利用者に解決したことを伝え、対応内容や原因を記録に追記して「クローズ」するまでがインシデント管理の一連の流れです。
ステップ3 運用ルールを策定する
設計したプロセスを円滑に運用するためには、具体的な判断基準や行動規範となる「運用ルール」が必要です。特に、対応の優先順位付けとエスカレーションに関するルールは、インシデント管理の質を大きく左右します。
優先度と緊急度の判断基準
全てのインシデントに同じリソースを割くことは非効率です。そこで、「影響度(ビジネスに与える損害の大きさ)」と「緊急度(対応を迫られる時間的制約)」の2つの軸から対応の優先度を客観的に判断する基準を設けます。以下のマトリクスのように基準を明確にすることで、担当者の主観に頼ることなく、常にビジネスインパクトに基づいた最適な対応順序を決定できます。
| 影響度 / 緊急度 | 高(1日以内に対応が必要) | 中(数日中に対応が必要) | 低(1週間以上先でも可) |
|---|---|---|---|
| 大(基幹システム停止など) | 最優先(重大) | 高 | 中 |
| 中(一部機能の利用不可など) | 高 | 中 | 低 |
| 小(軽微な表示崩れなど) | 中 | 低 | 低 |
SLAとエスカレーションルール
SLA(Service Level Agreement)とは、サービスの提供者と利用者の間で結ばれるサービス品質に関する合意です。インシデント管理においては、「優先度『高』のインシデントは1時間以内に一次対応を完了し、4時間以内に復旧させる」といった目標復旧時間(RTO)などを定めます。そして、このSLAを遵守するために「エスカレーションルール」を具体的に定義します。例えば、「優先度『高』のインシデントが30分経過しても一次対応で解決の目処が立たない場合、二次対応チームの担当者に自動で通知する」といったルールです。これにより、対応の停滞や遅延を組織的に防ぎ、サービスレベルの維持・向上につなげます。
ステップ4 テンプレートを準備する
インシデントに関する情報を正確かつ効率的に共有・記録するために、各種テンプレートを準備します。テンプレートを用いることで、報告内容の標準化が図られ、誰が報告しても必要な情報が漏れなく伝わるようになります。また、過去のインシデントを分析する際にも、統一されたフォーマットのデータは非常に役立ちます。具体的には、インシデントの発生からクローズまでを時系列で記録する「インシデント管理表」や、関係者に状況を報告するための「インシデント報告書」などのテンプレートを用意しておくと良いでしょう。これらのテンプレートには、管理番号、発生日時、報告者、影響範囲、優先度、対応状況、担当者、クローズ日時といった共通項目を盛り込むことが基本となります。
ステップ5 ツールを選定し運用を開始する
最後に、これまで設計した体制、プロセス、ルールを効率的に運用するためのツールを選定し、実際の運用を開始します。インシデントの件数が少ないうちはExcelやGoogleスプレッドシートでも管理可能ですが、件数が増えるとリアルタイムでの情報共有やステータス管理が困難になります。そのため、インシデント管理専用のツールを導入することが強く推奨されます。ツールを選定する際は、自社のプロセスに適合するか、操作は直感的か、他のシステムと連携できるか、といった観点で比較検討しましょう。ツールを導入したら、まずは小規模なチームでスモールスタートし、運用しながらプロセスやルールを継続的に見直し、改善していくことが成功の鍵となります。
すぐに使えるインシデント管理のテンプレート集
インシデント管理をこれから始める、あるいは既存のプロセスを見直したいと考えている担当者にとって、何から手をつければよいか分からないというケースは少なくありません。そこで、この章では、導入後すぐに実践で活用できる2つの基本的なテンプレートを提供します。これらのテンプレートは、ExcelやGoogleスプレッドシートなど、使い慣れたツールで簡単に作成・運用が可能です。テンプレートを活用することで、記録の標準化、情報共有の迅速化、そして対応漏れの防止を実現できます。自社の状況に合わせて項目をカスタマイズし、効果的なインシデント管理体制の第一歩を踏み出しましょう。
インシデント管理表テンプレート
インシデント管理表は、発生したすべてのインシデントを一覧で記録・追跡するための重要なドキュメントです。この表を用いることで、各インシデントのステータス、優先度、担当者を一目で把握し、対応の遅延や抜け漏れを防ぎます。チーム全体でリアルタイムに情報を共有するための基盤となります。
以下に、ITILのフレームワークを参考にした基本的な管理表の項目例を示します。
| 項目名 | 説明 |
|---|---|
| 管理番号 (ID) | 各インシデントを一意に識別するための番号。自動採番が望ましい。 |
| ステータス | インシデントの現在の状況(例:新規受付、対応中、保留、解決済み、クローズ)。選択式にすると管理しやすい。 |
| 発生日時 | インシデントが実際に発生した日時。 |
| 検知日時 | インシデントの発生を検知した日時。 |
| 報告者/部署 | インシデントを最初に報告した担当者名や部署名。 |
| インシデント概要 | 何が起きているのかを簡潔に記述した件名。 |
| 優先度 | ビジネスへの影響度と緊急度から判断される対応の優先順位(例:高、中、低)。 |
| 担当チーム/担当者 | インシデント対応の主担当となるチーム名や担当者名。 |
| 対応内容(最新) | 現在行っている対応の進捗状況を簡潔に記録する。 |
| 復旧見込み日時 | サービスが復旧する見込みの日時。顧客や関係者への報告に利用する。 |
| 解決日時 | 暫定的な対応を含め、サービスが復旧した日時。 |
| クローズ日時 | 恒久対策や報告書作成など、すべての対応が完了した日時。 |
この管理表をスプレッドシートで運用する際は、フィルタ機能を使って「対応中」のインシデントのみを表示したり、優先度順に並べ替えたりすることで、対応すべきタスクが明確になり、効率的な管理が可能になります。また、条件付き書式で優先度やステータスに応じてセルの色を変えるといった工夫も視覚的に分かりやすく、おすすめです。
インシデント報告書テンプレート
インシデント報告書は、一つのインシデントに関する詳細な情報を記録し、関係者への報告や事後の分析に用いるためのドキュメントです。特に、重大なインシデントが発生した際には、この報告書が原因究明と再発防止策の策定に不可欠な役割を果たします。インシデントを単なる「障害」で終わらせず、組織の貴重な「学び」に変えるための重要な資産となります。
以下に、インシデント報告書に含めるべき基本的な構成要素を示します。
基本情報
- 管理番号:インシデント管理表と紐づくID
- 報告書作成日:
- 報告者名/部署名:
- インシデント発生日時:
- インシデント復旧日時:
- インシデント概要(タイトル):
インシデントの詳細
いつ、どこで、誰が、何をしていた時に、どのような事象が発生したか(5W1H)を具体的に記述します。ユーザーからの問い合わせ内容、システムが出力したエラーメッセージ、再現手順などを客観的な事実に基づいて記録します。
影響範囲
このインシデントによって影響を受けた範囲を具体的に記述します。対象となるサービス、機能、顧客数、部署、地理的範囲などを明確にします。売上への影響など、ビジネスインパクトについても可能な限り定量的に記載することが望ましいです。
発生原因(根本原因分析)
インシデントを引き起こした直接的な原因と、その背景にある根本原因(Root Cause)を分析し、記述します。「なぜなぜ分析」などの手法を用いて深掘りすることで、表面的な事象だけでなく、プロセスや仕組みの問題点まで明らかにすることが重要です。
実施した対応(時系列)
インシデントを検知してから、暫定対応、そして恒久対応が完了するまでのプロセスを時系列で記録します。「何月何日 何時何分:誰が、何を実施したか」を具体的に記述することで、対応の正当性や判断の経緯を後から誰でも追跡できるようにします。
恒久対策と再発防止策
根本原因を取り除くための恒久的な対策と、同様のインシデントの再発を防ぐための具体的なアクションプランを記述します。対策内容、担当者、完了期限を明確にし、確実に実行されるように管理します。
- (例)対策1:〇〇サーバのメモリ増設(担当:〇〇、期限:〇月〇日)
- (例)対策2:デプロイ手順書の見直しと承認プロセスの追加(担当:△△、期限:△月△日)
この報告書テンプレートを組織内で標準化することで、報告の質が均一化され、ナレッジの蓄積が加速します。作成された報告書はナレッジベースとして保管し、いつでも誰でも検索・閲覧できる状態にしておくことが、組織全体のインシデント対応能力向上につながります。
効率的なインシデント管理におすすめのツール
インシデント管理をExcelやスプレッドシートで行うことには限界があります。対応状況のリアルタイムな把握が難しく、情報共有の漏れや対応の遅延につながりがちです。インシデント管理ツールを導入することで、これらの課題を解決し、インシデント対応のプロセス全体を可視化・自動化し、大幅に効率化できます。ここでは、ツールの選び方から具体的なおすすめツールまでを詳しく解説します。
インシデント管理ツールの選び方
自社に最適なインシデント管理ツールを選ぶためには、いくつかの重要なポイントがあります。以下の5つの観点から、機能やサービスを比較検討しましょう。
1. 必要な機能が揃っているか
まず、インシデントの受付からクローズまでの一連のワークフローを管理できる基本機能が備わっているかを確認します。具体的には、インシデントの起票(チケット作成)、担当者の自動割り当て、対応状況のステータス管理、情報共有のためのコメント機能、ナレッジベースの構築機能などが挙げられます。自社の運用プロセスに合わせてワークフローを柔軟にカスタマイズできるかも重要な選定基準です。
2. 直感的な操作性(UI/UX)
インシデント発生時は、一刻も早い対応が求められます。そのため、IT部門の担当者だけでなく、インシデントを報告する一般の従業員にとっても、誰でも直感的に操作できる分かりやすいインターフェースであることは非常に重要です。無料トライアルなどを活用し、実際の画面の使いやすさを事前に確認することをおすすめします。
3. 外部ツールとの連携性
インシデント管理をより効率的に行うには、普段利用している他のツールとの連携が欠かせません。例えば、SlackやMicrosoft Teamsなどのチャットツールと連携できれば、インシデント発生の通知や状況共有を迅速に行えます。また、JiraやBacklogといったプロジェクト管理ツール、各種監視ツールと連携することで、情報が一元管理され、開発チームへのエスカレーションもスムーズになります。
4. 可視化・分析機能の充実度
対応状況をリアルタイムで把握できるダッシュボード機能や、対応件数、平均解決時間、SLA(サービスレベル合意)達成率などを分析できるレポート機能も重要です。これらの機能により、対応のボトルネックを特定し、継続的な業務改善につなげることができます。経営層への報告資料としても活用できるでしょう。
5. コストとサポート体制
ツールの料金体系は、ユーザー数や機能によって様々です。自社の規模や予算に合ったプランがあるかを確認しましょう。また、導入時の設定支援や運用開始後のトラブルシューティングなど、サポート体制の充実度も確認すべきポイントです。特に、日本語での手厚いサポートが受けられるかどうかは、スムーズな運用を実現する上で大きな安心材料となります。
おすすめツール3選の比較
ここでは、国内外で多くの企業に導入されている代表的なインシデント管理ツールを3つピックアップし、その特徴を比較します。
| ツール名 | 主な特徴 | 得意な企業規模 | 連携性 |
|---|---|---|---|
| ServiceNow | ITILに完全準拠したITSM(ITサービスマネジメント)のデファクトスタンダード。インシデント管理だけでなく、問題管理、変更管理など幅広い業務を統合管理できる。 | 中規模〜大企業 | 非常に高い。APIが豊富で、多くのエンタープライズ向けシステムと連携可能。 |
| Jira Service Management | 開発ツールJiraとの親和性が非常に高い。インシデントから開発チームの課題(チケット)への連携がスムーズで、アジャイル開発との相性が良い。 | 中小企業〜大企業 | 高い。Slack、Teamsなど主要なチャットツールや多数のIT運用ツールと連携できる。 |
| Backlog | 国産のプロジェクト管理ツール。シンプルで直感的な操作性が特徴。非IT部門でも使いやすく、インシデント管理(チケット管理)の第一歩として導入しやすい。 | 小規模〜中堅企業 | 標準的。チャットツールやバージョン管理ツールなど、日本の開発現場でよく使われるツールと連携可能。 |
ServiceNow
ServiceNowは、ITILに準拠した高度なインシデント管理を実現したい大企業に最適なプラットフォームです。ワークフローの自動化やAIを活用したインシデントの予測・分析など、豊富な機能を備えており、複雑な組織のITサービス運用全体を最適化できます。
Jira Service Management
Atlassian社が提供するJira Service Managementは、特に開発部門との連携を重視する企業におすすめです。インシデントを開発チームが利用するJira Softwareの課題と直接リンクさせることができるため、バグ修正や機能改修へのエスカレーションが非常にスムーズに行えます。
Backlog
株式会社ヌーラボが提供するBacklogは、国産ツールならではの分かりやすさが魅力です。「課題」という単位でインシデントを管理し、誰が・いつまでに・何をするのかを明確に可視化できます。まずはシンプルにインシデントのチケット管理から始めたいという企業にとって、最適な選択肢の一つです。
国産ツールならSHERPA SUITEも選択肢に
海外製ツールが主流となりつつある中で、手厚い日本語サポートや日本企業の商習慣への適合を重視するならば、国産のITSMツールも有力な選択肢となります。その代表格が「SHERPA SUITE(シェルパスイート)」です。
SHERPA SUITEは、インシデント管理はもちろん、問題管理、変更管理、構成管理(CMDB)といったITILの主要なプロセスを網羅した統合型のITサービスマネジメントツールです。ITILに準拠しつつも、日本企業が導入しやすいように設計されたインターフェースと運用フローが特徴です。
海外製ツールと比較して、導入から運用、定着化まで一貫した日本語での手厚いサポートを受けられる点は大きなメリットです。機能が豊富すぎて使いこなせない、英語のドキュメントに抵抗があるといった懸念を持つ企業にとって、SHERPA SUITEは安心して導入できる有力な候補となるでしょう。
まとめ
本記事では、インシデント管理の目的やメリットから、具体的な始め方の5ステップ、すぐに使えるテンプレートまでを網羅的に解説しました。インシデント管理は、予期せぬシステムトラブル発生時に迅速な復旧を可能にし、ビジネスへの影響を最小限に抑えるために不可欠なプロセスです。
その導入は、機会損失の防止や顧客満足度の向上といった直接的な効果に加え、対応ノウハウの蓄積による業務の属人化防止という組織力強化の側面も持ち合わせています。ご紹介したステップとテンプレートを活用すれば、誰でも体系的な管理体制の構築を始められます。
まずは自社の状況に合わせて、インシデント管理の体制構築とルールの策定から着手してみてはいかがでしょうか。より効率的な運用を目指すなら、SHERPA SUITEのような国産ツールを含めたインシデント管理ツールの導入も有効な選択肢となるでしょう。